プレスリリース

2023年 10月 19日

株式会社 国際電気通信基礎技術研究所(ATR)
国立大学法人 大阪大学
1人よりも2人のほうが「かわいい」?
対象間のつながりが見えると人はよりかわいいと感じる
~複数で活動するロボットの振る舞い設計に貢献~

  • 「かわいい」という感情は、人と人、人とモノの交流を促します。人に「かわいい」と感じてもらうためには、どのような要素が重要なのでしょうか?
  • 私たちの研究グループでは、「かわいい」と感じる要素として、個体の見た目ではなく、対象の数と対象間の関係に着目し、人・モノ・ロボットの写真と動画を使ったオンライン実験を実施しました。
  • その結果、単体よりも複数(特に2つ)がかわいいと感じられること、対象間のつながりが見えるとよりかわいいと感じられることを明らかにしました。
  • これらの知見は、人がより親しみを感じられるロボットの設計に役立つと期待されます。
  • この成果は、米国科学雑誌PLOS ONEオンライン版に10月19日に掲載されます。
概要
 ATRインタラクション科学研究所エージェントインタラクションデザイン研究室 塩見昌裕 室長と大阪大学大学院人間科学研究科 入戸野宏 教授らの共同研究では、見た目の似ている対象が複数存在するとき、その対象の間でつながりを感じられる状況において、より「かわいい」と感じてもらえることを、写真および動画を用いて明らかにしました(下図参照)。その知見を応用し、見た目が同じである複数のロボットがつながりを感じさせる振る舞いを異なる台数(1台~10台)で行った場合に、2台がより「かわいい」と感じてもらえることも明らかにしました。コロナ禍で複数のロボットが活躍する中で、ロボットがより「かわいい」と感じてもらえる振る舞い設計に貢献することが期待できます。
背景
 「かわいい」という感情は、人と人、人とモノの交流を促します。近年普及が進んでいるペットロボットも、その多くが愛くるしく、可愛らしい見た目が採用されています。では、人に「かわいい」と感じてもらうためには、どのような要素が重要なのでしょうか? 身体に比べて大きな頭、丸みを帯びた顔や体形、前方に突き出た広い額といった乳幼児の特徴(ベビースキーマ)に代表されるような、見た目の要素だけで「かわいい」の基準が決まってしまうのでしょうか。ロボットのような製品は一度設計された後に見た目を変化させることは本質的に困難です。そのため、見た目以外の要素で「かわいい」と感じる度合いを増加させることができれば、より人にとって親しみやすいロボットの実現が期待できます。
研究の狙い
 私たちは、見た目以外の「かわいい」と感じる要素の探索を続ける中で、数と関係の効果に着目しました。例えば、1粒でぽつんと置かれているサクランボよりも、2粒のサクランボが房でつながって置かれているほうが、「かわいい」と感じられます。また、複数の動物の赤ちゃんが楽しそうにじゃれている様子は、動物の赤ちゃんが1匹でいる場合よりも「かわいい」と感じるでしょう。すなわち、複数の対象につながりがあるように見えると、人はよりその対象を「かわいい」と感じるのではないか、という仮説を立てました。
「かわいい」と感じられる台数と関係の効果を検証する実験とその結果について
 この仮説を検証するため、まず人やモノ、ロボットの数が「かわいい」と感じる度合いに与える影響を検証しました。対象の数が1の場合、2でただ並んでいる場合、2でつながりを感じさせるように並んでいる場合の写真を用いてWEB上でアンケートを収集する実験を行いました。実験の結果から、対象の種類にかかわらず、数が2でつながりを感じさせるように並んでいる場合がもっとも「かわいい」と評価されました。追加実験として、ロボットが手を振ってあいさつする様子を同様に1台・2台でただ並んでいる・2台でつながりを感じさせるように並んでいる場合の動画を作成し、WEB上でアンケートを収集する実験を行った結果、最初の実験と同様に数が2でつながりを感じさせるように並んでいる場合がもっとも「かわいい」と評価されました。
 発展的な取り組みとして、最も「かわいい」と感じられるロボットの台数についての調査も行いました。ロボットの台数を1台から10台まで変化させて、ロボットが手を振ってあいさつする様子を動画で作成してWEBアンケートを行った結果、2台の場合がもっとも「かわいい」と評価されることも明らかになりました。
今後の展開
 本成果は、ロボットという人工物であっても、複数台による関係の表出を行うことで、より「かわいい」と感じてもらえることを示しています。工業製品であるロボットはその見た目を本質的に変化させることは容易ではありませんが、他のロボットと連携することで実験参加者の「かわいい」と感じる気持ちに変化をもたらしたことは、主観的な「かわいい」と感じる気持ちを引き起こす要素が個体の見た目以外にも存在していることを示唆しています。
【掲載論文】
題名:Is two cuter than one? Number and relationship effects on the feeling of kawaii toward social robots
(二つは一つよりかわいい? 数と関係性が「かわいい」に与える影響)
著者:Masahiro Shiomi, Rina Hayashi, and Hiroshi nittono
塩見 昌裕(ATR)、林 里奈(大阪大学/ATR)、入戸野 宏(大阪大学/ATR)
掲載誌: PLOS ONE
掲載日: 令和5年10月19日、04:00 am (日本時間) オンライン版公開
DOI:  10.1371/journal.pone.0290433
【研究支援】
 本研究は、JST戦略的創造研究推進事業 (CREST:ソーシャルタッチの計算論的解明とロボットへの応用(研究代表者:塩見昌裕、JPMJCR18A1))、科研費 (基盤A:「かわいい」感情の効用とその実社会応用に関する研究 (代表:入戸野宏)) の研究プロジェクトの一環として実施されました。
【実験手順の詳細について】
 本研究では、3つの実験を行っています。1つ目の実験では、女の子、男の子、サクランボ、ロボットがそれぞれ1人・1つの場合、2人・2つで並んでいる場合、2人・2つがつながりを感じさせるように並んでいる場合の画像を用意し、「かわいい」と思う度合いについてWEBアンケートで評価しました。実験には201名の被験者(女性99名、男性101名、無回答1名、年齢は20~60歳代)が参加し、フィルタリング処理を実施した結果162名の被験者によるデータ分析を行いました。実験結果から、どの対象においても2人・2つがつながりを感じさせるように並んでいる場合のほうが、1人・1つの場合および2人・2つで並んでいる場合よりも「かわいい」と感じることが示されました。
 2つ目の実験では、ロボットが手を振ってあいさつする様子の動画を、1台の場合・2台が並んでいる場合・2台がつながりを感じさせるように並んでいる場合で作成し、再び「かわいい」と思う度合いについてWEBアンケートで評価しました。実験には202名の被験者(女性100名、男性100名、無回答2名、年齢は20~60歳代)が参加し、フィルタリング処理を実施した結果179名の被験者によるデータ分析を行いました。実験結果から、動画の場合であっても、2人・2つがつながりを感じさせるように並んでいる場合のほうが、1台および2台で並んでいる場合よりも「かわいい」と感じることが示されました。
 3つ目の実験では、つながりを感じさせるロボットの台数を1台から10台まで変化させて検証を行いました。2つ目の実験と同様に、ロボットが手を振ってあいさつする様子の動画を用いて、「かわいい」と思う度合いについてWEBアンケートで評価しました。実験には200名の被験者(女性98名、男性102名、年齢は20~60歳代)が参加し、フィルタリング処理を実施した結果152名の被験者によるデータ分析を行いました。実験結果から、2台の場合が最も「かわいい」と感じることが示されました。
【本件に関するお問い合わせ先】
■株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)
経営統括部 企画・広報チーム
TEL:0774-95-1176
FAX:0774-95-1178
Email:pratr.jp
■大阪大学 大学院人間科学研究科
教授 入戸野 宏(にっとの ひろし)
Email: nittonohus.osaka-u.ac.jp